ヨシキリザメ

Blue Shark, Prionace glauca


最近一年間の動き

 大西洋におけるヨシキリザメ資源についてICCATでレビューが行なわれたが、MSYを生じさせる資源水準を上回るという推定は特に変わり無かった。2007年にアオザメと共に資源解析のためのデータ準備会合が開かれる予定となった。

 

利用・用途

肉はすり身など、鰭はふかひれ、皮は工芸品や医薬・食品原料、脊椎骨は医薬・食品原料などに利用されている。

 

漁業の概要

 ヨシキリザメは全世界の熱帯から温帯にかけて出現し、外洋性さめ類の中で最も資源豊度が高いと考えられ、まぐろはえ縄漁業によって数多く混獲されている。しかし、主要な漁業対象種ではなく、商品価値が比較的高い沿岸や三陸沖の漁場を除き、遠洋水域で混獲されるヨシキリザメは漁場近くの外国の港で水揚されるか投棄されている。なお、ここで言う投棄とは、生きたまま放流する場合を含んでいる。水揚は気仙沼港を中心に行なわれ、肉、鰭、脊椎骨、皮が食用や工芸用に利用されている。1に農林水産省統計部発行の「漁業・養殖業生産統計年報」(農林統計)に記載されている、まぐろはえ縄漁業によるさめ類の実際に漁獲された数量を示した。農林統計では1971年以降、まぐろはえ縄漁業は、遠洋・近海・沿岸の3種類に分類されており、それらの合計は、13,00030,000トンで推移している。90年代後半まで、年々減少する傾向にあったが、近年再び増加する傾向が見られる。種別漁獲量は不明であるが、78割程度を本種が占めているものと推定される(中野 1996)。

 

1. まぐろはえ縄漁業によるさめ類漁獲量(トン)

  年

遠洋

近海

沿岸

Total

1971

10,782

16,698

1,833

29,313

1972

8,588

14,207

1,992

24,787

1973

9,219

13,878

2,316

25,413

1974

6,866

13,054

2,357

22,277

1975

7,898

14,389

1,325

23,612

1976

7,142

14,167

2,615

23,924

1977

6,590

16,352

2,321

25,263

1978

7,718

13,189

3,116

24,023

1979

8,211

17,025

2,832

28,068

1980

8,811

18,639

2,242

29,692

1981

8,716

13,623

2,237

24,576

1982

8,090

12,567

1,713

22,370

1983

9,496

14,025

749

24,270

1984

9,009

11,871

2,336

23,216

1985

8,042

12,341

2,524

22,907

1986

7,750

13,952

2,116

23,818

1987

8,676

11,506

2,302

22,484

1988

10,240

10,884

2,115

23,239

1989

6,565

8,211

1,863

16,639

1990

4,387

8,293

1,838

14,518

1991

5,940

10,139

1,680

17,759

1992

7,130

10,753

1,719

19,602

1993

6,960

10,882

1,812

19,654

1994

5,625

8,207

2,052

15,884

1995

2,947

8,054

1,683

12,684

1996

3,093

9,143

1,954

14,190

1997

3,258

10,844

2,128

16,230

1998

7,720

9,089

2,551

19,360

1999

8,649

9,011

2,345

20,005

2000

6,897

7,782

2,031

16,710

2001

6,947

9,907

2,633

19,487

2002

9,909

11,711

2,007

23,627

2003

5,427

13,291

1,516

20,234

(データ:漁業・養殖業生産統計年報)

 

また水産庁では、まぐろはえ縄漁業等による日本の主要漁港へのさめ類の種別水揚量を調査している。それによるとヨシキリザメの水揚量は、19922005年において10,50016,000(平均13,200)トンで、近年やや増加傾向が見られ、さめ類の合計値に占める割合は6980%と最も多かった(1)。漁法別に見ると、95%近くがはえ縄によるものであった。

1. 日本の主要漁港へのヨシキリザメ水揚量

 

生物学的特性

【分布】本種は南北太平洋、南北大西洋、インド洋の熱帯から温帯域にかけて広く分布し(2Compagno 1984)、特に温帯域での分布豊度が高く、温帯域出現種と考えられている(中野 1996)。系群については、ほとんど知られていないが、繁殖周期が大洋の南北で逆になるので、南北太平洋で2系群、南北大西洋で2系群と考えるのが妥当であろう。そこで、今回はインド洋1系群を加え5系群が存在すると仮定して解析を進めた。しかし、赤道を越えて再捕された標識個体もあるので(Casey et al. 1989)、南北での交流も有り得る。また、分布の連続性を考慮すると、南半球では系群が1つである可能性も否定できない。

2. ヨシキリザメの分布(Compagno 1984より)

 

【産卵・回遊】本種の繁殖様式は胎盤型の胎生であり、産仔数の平均と範囲は25.61135(中野 1994Gubanov and Grigor’yev 1975)、出生時の体長(尾鰭前長)は3043cm(中野 1994)である。回遊については北太平洋においてモデルが提唱されている(中野 1994)。それによると、本種は北緯20度付近の海域で初夏に交尾し、雌は約1年の妊娠期間後に北緯30度以北の海域で出産する。幼魚は北緯40度付近の亜寒帯境界を生育場とし、成熟すると温帯域に移動する。

 

【成長・成熟】脊椎骨に形成される輪紋から年齢が推定されており、その結果に基づいてCailliet and Bedford1983)、田中(1984)、中野(1994)が太平洋における成長式を雌雄別に報告している。成長には性差が認められ、雄が雌に比べて早く、大きく成長する。成熟に達する体長は、北太平洋では雌雄共に140160 cm(須田 1953、中野 1994)、北大西洋では雌が約165 cm、雄が160 cmPratt 1979)と報告されており、年齢に換算すると雌6歳、雄5歳と推定される。また寿命は20歳以上とされている(Compagno 1984)。

 以下に北太平洋で求められた成長式を示す。

Cailliet and Bedford1983):全長

 Lt=241.9(1-e-0.251(t-(-0.795)))

 Lt=295.3(1-e-0.175(t-(-1.113)))

 田中(1984):尾鰭前長

 雌:Lt=256.1(1-e-0.116(t-(-1.306)))

 雄:Lt=308.2(1-e-0.094(t-(-0.993)))

中野(1994):尾鰭前長(2、図3

 Lt=243.3(1-e-0.144(t-(-0.849)))

 Lt=289.7(1-e-0.129(t-(-0.756)))

 

2. ヨシキリザメの年齢と成長(尾鰭前長cm)(中野1994

年齢

0

57

59

1

82

87

2

104

111

3

122

133

4

139

152

5

153

169

6

165

183

7

175

196

8

184

207

9

192

217

10

199

226

11

205

234

12

210

241

13

215

247

14

218

252

15

222

256

 

3. ヨシキリザメの年齢と成長(中野1994

 

【食性・捕食者】多獲性浮魚類やまぐろ類、いか・たこ類が主な餌料である(川崎ほか1962、谷内1984Strasburg 1958)。海域、成長段階等によって異なった物を摂餌しており、特に選択的ではなく、生息域に豊富にいる利用しやすい動物を食べる日和見的な食性を示している。成魚に対する捕食者は知られていないが、幼魚は大型さめ類や海産哺乳類に食べられている可能性がある(Nakano and Seki 2003)。

 

資源状態

【資源の動向】Nakano and Honma1997)は、まぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書を分析し、さめの種組成とさめ混獲報告率(航海あたりのさめ混獲報告日の割合)の関係に基づき、報告率70%以上のデータがヨシキリザメのCPUE1,000鈎当たりの漁獲尾数)の指標となり得ることを示した。この方法の妥当性が大西洋のオブザーバーデータを使って検証され、報告率80%以上のデータを用いるのが最も適当であると判断された(Nakano and Clarke 2006)。そこで19712005年における日本のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書から報告率80%以上のデータを抜き出し、GLM(一般化線形法)で標準化したヨシキリザメのCPUEを算出した。その結果、南北太平洋においてヨシキリザメの標準化したCPUEは緩やかな増減を繰り返し、長期的には顕著な変化は見られなかったが、近年北太平洋では増加、南太平洋では減少する傾向が認められた(4)。

4. 北太平洋()および南太平洋()におけるヨシキリザメの標準化したCPUE

 

またKleiber et al. (2001)は、北太平洋のヨシキリザメ資源に関して各国の漁獲量の総計を推定し、現行の漁獲量はそのMSYのどの程度の割合にあるかを算定した。その結果、現在の漁獲量はモデルで見積もられたMSY1/4から1/2程度であり、当面ヨシキリザメ資源が著しく減少するような急激な変化は考えられないと報告している。

昨年、Ward and Myers (2005)は太平洋熱帯域において、漁業により大型まぐろ類やさめ類等の高次捕食者が間引かれて行った結果、それらの資源量と平均サイズの大幅な減少が見られると報告し、世界的に注目された。特にヨシキリザメは1950年代と比べ、1990年代では資源量で13%、平均体重が52 kgから22 kgにまで下がっているとの事であった。この様な現象が果たして太平洋全体で起こっているのかを確かめる為に、水産高校実習船や水産試験場調査船等により過去に実施された延縄調査資料と現在のデータを解析し、さめ類の資源状態を表すCPUE(漁獲率)とヨシキリザメの大きさの年代による変化を比較検討した結果、西部北太平洋海域では、19306090年代において、まぐろ延縄で漁獲されるサメ類の標準化されたCPUEに顕著な差異は認められず、90年代はむしろ他の年代に比べて高い水準であったと考えられた(5)。また、ヨシキリザメの平均サイズは、一部の海域で90年代に比べて40年代で有意な減少傾向が観察されたものの、多くの場合は差が検出されなかった。以上の結果から30年代のヨシキリザメを主体としたさめ類資源が、それ以降のまぐろはえ縄を始めとする漁業活動によって、少なくとも西部北太平洋海域においては大きな影響を受けていないものと考えられた。

5. 各年代における標準化されたサメ類のCPUEの比較(左図は10S-50N、右図は10-20N海域で比較した)

 

 南北大西洋の系群に関しては、日本、米国、台湾のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書データから標準化されたCPUEが得られている(ICCAT 2005Nakano and Clarke 2005Brooks et al. 2005Liu et al. 2005)。6に示す様に、何れも北太平洋の場合と同様に緩やかな増減を繰り返し、顕著な増減傾向は見られなかった(南大西洋19771980年の変動は、データが少なかったためと考えられる)。また様々なモデルを使った資源解析が試みられており、多くの場合、現在の資源量は南北共にMSYが生じる資源量以上のレベルであると示された(ICCAT 2005)。更に日本の漁獲成績報告書から報告率で選別したデータを使って、漁獲量の推定が行われている(Matsunaga and Nakano 2005)。それによると、1994年から2003年にかけて、1133(平均約20)万尾、4,20012,700(平均7,600)トンのヨシキリザメが日本のはえ縄漁船によって漁獲されていたものと推定された。

6. 大西洋におけるヨシキリザメの標準化されたCPUE

(上:北大西洋、下:南大西洋、JLL:日本、US:米国、Ch Taipei:台湾)

 

インド洋系群に関しては、日本のまぐろはえ縄漁船の漁獲成績報告書データから、標準化されたCPUEの経年変化が得られており、他の系群と同様にCPUEは増減を繰り返す傾向が認められた(7)。

7. インド洋におけるヨシキリザメの標準化したCPUE

 

以上の結果をまとめると、1971年以降の30年間以上に亘り、何れの系群においてもヨシキリザメのCPUEに顕著な増減傾向は認められなかった。従って、この約30年間でヨシキリザメの資源は安定的に推移していたものと推定されたが、南北太平洋における近年の動向には注意を払う必要があろう。

 

【漁獲圧の動向】平成15年度の漁業・養殖業生産統計年報によれば、まぐろはえなわ漁業に従事する操業船は遠洋まぐろはえなわ船が504隻、近海まぐろはえなわ船が406隻、沿岸まぐろはえなわ船が480隻である。

日本のまぐろはえ縄船による大洋別漁獲努力量(鈎数)と三大洋合計の努力量を8に示した(遠水研部内資料)。日本船全体の漁獲努力量は1952年の1.16億本から増加して、1962年には4億本を超え、1978年までは44.7億本のレベルで推移している。その後1991年までは55.6億本のレベルにあったが、1992年以降に減少し1999年からは4億本前後となった。

8. 日本のまぐろはえ縄漁業の三大洋別使用努力量(鈎数)

 

漁獲努力量の変化を大洋別に見ると、太平洋では19521962年にかけて1.13億本のレベルに増加し、1975年までは3億本前後のレベルで推移している。19761994年までは3.24億本のレベルに増加したが、19952000年の6年間は連続して減少し、2000年は2億本を割り込んだ。大西洋ではまぐろはえなわ操業は1956年に始まり、1965年まで増加して9千万本に達したが、その後19661988年までは38千万本のレベルで推移した。その後1997年までは増加したが98年以降は再び減少し、2004年は0.8億本のレベルであった。インド洋では19521967年にかけて増加し、1967年には1.3億本に達した。その後1987年までは1億本前後(0.61.3億本)で推移したが、1988年から減少し、19901993年は5千万本前後のレベルとなった。その後増加し、2004年のレベルは0.9億本程度であった。

太平洋におけるまぐろはえ縄漁船の漁獲努力量の総計を9に示した。これはSPCの資料を基に作成したもので、日本を含めた関係各国の漁獲努力量が足し合わされている。前述のように、1995年以降は日本の努力量が減船等の影響で大幅に減少してきているにも拘わらず、太平洋全体ではむしろ増加傾向を示しており、1990年代は67億本のレベルにある。かつて日本漁船の努力量は全体の半分以上を占めていたが、現在では1/3にも満たない状況にある。その主な要因は台湾、韓国、中国の漁船の増加であろう。また、大西洋やインド洋においても同様な傾向が推測され、日本漁船の努力量の減少を、他の国が補って余りあるという図式となっているものと考えられる。

9. 太平洋における日本を含めたまぐろはえ縄漁業の漁獲努力量

(鈎数、SPCホームページから得たデータより作図)

 

【資源水準・動向】北太平洋ではKleiber et al. (2001)の推定から、資源水準は高位であると考えられるが、他の系群では不明である。また、CPUEが最近の30年間において顕著な増減傾向が見られないことから、何れの系群においても長期的な資源動向は横ばい傾向にあるものと推測されるが、南北太平洋における近年の動向には注意が必要である。

 

管理方策

 資源状態に顕著な変化は観察されていないため、保護・管理に対する特別な勧告は必要ない。ただし、資源状態については引き続き観察していく必要がある。しかし、資源評価を行うための種別漁獲量の統計資料がないのが最大の問題である。水産庁では近年、まぐろはえ縄漁業における漁獲成績報告書の提出フォームを変更し、6種のさめの漁獲量を報告するようになっているが、さめを漁獲しても正確に記入されていない場合があり、種別投棄量も含め実態を把握することが困難である。まぐろはえ縄漁船で漁獲されるさめの種類、あるいは投棄量を正確に推定するためには、オブザーバプログラム等の、漁業者に依存しない方法での資料収集の推進を含め、今後資料収集方法の改善を検討していく必要がある。

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

 混獲生物サブグループ

 遠洋水産研究所 混獲生物研究室

 松永浩昌

水産庁 増殖推進部 研究指導課

中野秀樹

 

ヨシキリザメの資源の現況(要約表)

 

北太平洋

南太平洋

北大西洋

南大西洋

インド洋

資源水準

高位

調査中

調査中

調査中

調査中

資源動向

増加

減少

横ばい

横ばい

横ばい

世界の漁獲量

調査中

調査中

調査中

調査中

調査中

我が国の漁獲量(最近5年)

1.31.6万トン

(水揚量)

平均:1.5万トン

調査中

調査中

調査中

調査中

管理目標

検討中

検討中

検討中

検討中

検討中

資源の状態

検討中

検討中

検討中

検討中

検討中

管理措置

モニタリング

モニタリング

モニタリング

モニタリング

モニタリング

管理機関・

関係機関

IATTC, WCPFC

WCPFC

ICCAT

ICCAT

IOTC, CCSBT

 

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