ジンベイザメ 日本周辺

Whale Shark, Rhincodon typus



ジンベイザメ(Last and Stevens 1994

 

最近一年間の動き

 世界的には、特に目立った動きは見られなかった。また2005年の日本周辺での出現は、少なかった2004年に比べると多く報告されている。

 

利用・用途

 鰭はフカヒレスープの原料に、肉は人間の食用になるが、日本ではほとんど利用されない。まき網、竿釣り漁業のさめ付き操業の指標となっている。近年、多くの水族館で飼育・展示が行なわれるようになってきた。

 

漁業の概要

我が国ではジンベイザメを対象とした漁業はない。定置網への混獲は相当数あると思われるが、商業的価値はないので、放流あるいは廃棄されるのが普通である。市場に水揚げされる例は少ない。定置網の混獲は主に沖縄本島から九州、四国太平洋沿岸で起きている(内田1995)。

 

生物学的特性

【分布】ジンベイザメは全世界の熱帯および温帯に分布し、外洋にも沿岸にも回遊する。赤道を中心に概略、南は35ºS、北は30ºNの帯内に分布し、暖流の動きに従ってさらに高緯度にも出現する(1)。太平洋西岸の北海道沖(43ºN)や大西洋西岸のニューイングランド沖(42ºN)などへの夏季の出現がその例である。適水温や餌料生物の状況に従って移動するのは確かであるが(岩崎 1970Clark 1992)、いかなる距離をどのように回遊するのか、生息深度などもよくわかっていない。近年、衛星追跡によるジンベイザメの回遊経路の解明が試みられ、北米バハ・カリフォルニア沖で放流された個体が37ヵ月後に西部太平洋赤道域まで移動したことが確認された(Eckert and Stewart 2001)。

 

1. 日本周辺と世界におけるジンベイザメの分布 (上、内田1995;下、Last and Stevens 1994)

 

 ジンベイザメの系群構造などについては、ほとんどわかっていない。ジンベイザメは世界の熱帯から温帯域に分布することから、大西洋は太平洋・インド洋から隔離されているであろう。太平洋・インド洋・大西洋における東西あるいは南北の系群が存在するかどうかは、まったく不明である。太平洋では長期にわたる東西方向の移動が知られているので、個体群内の東西交流はあるであろう。インド洋との関係に関しても不明である。

 

【産卵・回遊】本種の繁殖については長い間謎であったが、1995年に台湾で漁獲された11 mの雌が妊娠しており、両子宮中に300個体の胎仔と卵殻を持っていた。この胎仔のうちの一尾は日本の水族館で143日間生存した。これにより、ジンベイザメが卵胎生であることが明らかになった。本種の小型個体は5593 cmまでで、世界に9例しか報告例がなく、出生時の大きさはこの範囲にあるであろうが、特定されていない(Joung et al. 1996)。

 

【成長・成熟】本種は世界最大の魚類といわれているが、最大体長は1718 m、あるいは21.4 mという説もあるがはっきりしない。13.7 mというのが本種の最大としてよく用いられる数値である。最新の正確な計測は12.1 mである(Compagno 2001)。

ジンベイザメの飼育下(容量1,100トンの水槽)における年間の成長は29.5 cm(全長;搬入時3.65 m57ヶ月間の飼育)および46 cm(搬入時4.4 m19ヶ月間の飼育)であった。容量5,400 トンの水槽では45.5 cm(搬入時4.1 m44ヶ月の飼育)であった(内田 1995)。年間の成長が29.5 cmという例もあるが、飼育期間の後半、体調不良が長く続いたため年平均成長率が低かったと推定される。これらのことから、全長36 mくらいの若齢個体では、少なくとも年間45 cmくらいの成長があるものと推定される(内田 1995)。

 

【食性】ジンベイザメはプランクトン捕食者である大型の4種の板鰓類のうちの1種である(他の3種はウバザメ、メガマウス、オニイトマキエイ)。大きな口を開けて遊泳し、コペポーダなどの甲殻類のほかに、イワシ、カタクチイワシ、サバ、小さなまぐろ類、ビンナガ、イカなども捕食する(Compagno 2001)。

 

資源状態

【資源の動向】定置網における混獲は内田(1995)によれば、沖縄本島の定置網で19791994年の16年間に78尾が混獲されている。年平均4.9尾であり、季節は39月であるが夏が多い。四国太平洋岸では19891993年の5年間で25尾が混獲されている。本海域でも年平均5尾であり、67月に最も混獲されている。

11970年から2002年までの、文献情報等から収集したジンベイザメの日本周辺での出現記録およびまき網漁業のさめ付き操業の記録を示した。ジンベイザメは毎年2尾から16尾程度が定置網などに迷入している。また、まき網漁業のさめ付き操業の回数は1990年代に増大し、1996年から1998年では毎年200回を越えている。双方の情報を考慮すると、日本周辺海域には毎年かなりの数のジンベイザメが来遊してくると考えられる。

 

1. 本邦周辺におけるジンベイザメの年別出現記録

(さめ付き操業は日本周辺海域のまき網漁船のさめ付き操業回数)

(1)+(2)

さめ付き

操業(1

出現数(2

出現場所(県)

1950

2

 

2

大分、宮城1)

・・・

 

 

 

 

1960

1

 

1

福井9)

1961

 

 

 

 

1962

2

 

2

長崎1)、青森4)

・・・

 

 

 

 

1970

1

1

 

 

1971

31

31

 

 

1972

15

13

2

福井1)、和歌山7)

1973

12

10

2

鹿児島、新潟1)

1974

7

7

 

 

1975

34

34

 

 

1976

60

60

 

 

1977

24

24

 

 

1978

15

15

 

 

1979

15

9

6

沖縄(5)、京都1)

1980

17

11

6

沖縄(5)、福井1)

1981

10

5

5

沖縄(5)1)

1982

24

19

5

沖縄(5)1)

1983

27

21

6

沖縄(5)、島根1)

1984

86

79

7

沖縄(5)、京都、石川1)

1985

50

42

8

沖縄(5)、石川、新潟、静岡1)

1986

74

65

9

沖縄(5)、京都(2)、

福井、石川1)

1987

107

102

5

沖縄(5)1)

1988

49

44

5

沖縄(5)1)

1989

45

34

11

沖縄(5)、四国太平洋岸(5)

鹿児島1)

1990

49

35

14

沖縄(5)、四国太平洋岸(5)1)

福井(4)9)

1991

69

53

16

沖縄(5)、四国太平洋岸(5)

徳島、和歌山(2)、

千葉、京都、佐賀1)

1992

43

33

10

沖縄(5)、四国太平洋岸(5)1)

沖縄6)

1993

172

153

19

沖縄(10)、四国太平洋岸(5)1)

石川(4)8)

1994

105

92

13

沖縄(5)、石川1)、高知(35)、福井(4)9)

1995

180

171

9

高知(9)5)

1996

218

214

4

沖縄(4)6)

1997

231

219

12

鹿児島(5)3)、高知(4)5)

和歌山7)、沖縄(2)6)

1998

231

229

2

高知5)、沖縄6

1999

174

172

2

沖縄4)、高知5)

2000

72

56

16

鹿児島(8)2)、高知(2)5)、沖縄(6)6)

2001

66

52

14

鹿児島(5)3)、大分、三重4)

沖縄(3)6)、石川8)、京都9)、高知(2)16)

2002

13

n.a.

13

鹿児島(6)3)、青森4)、石川8) 、大分15)、高知(4)16)

2003

16

n.a.

16

長崎11、鹿児島(13)3)、沖縄15)、高知16)

2004

7

n.a.

7

福井9)、京都(2)9)

小笠原10)、長崎12) 鹿児島3)、高知16)

2005

14

n.a.

14

静岡県13、長崎14、鹿児島(9)3)、富山、京都、沖縄16)

2006

2

 

2

沖縄15)

出典: 1) 内田 (1995), 2Anon. (2001), 3)かごしま水族館 中畑 (私信), 4)インターネット (詳細不明), 5) 大阪海遊館 西田 (私信), 6) 自然資源保全協会 (2002), 7) 自然資源保全協会 (2003), 8) 自然資源保全協会 (2004), 9) 自然資源保全協会 (2005), 10) 小笠原チャンネル (2004), 11) 長崎新聞 (2003)12) 長崎新聞 (2004), 13) 読売新聞 (2005), 14) 長崎新聞 (2005) 15)水族館非公式ガイド(2006), 16) 日本エヌ・ユー・エス(2006

 

2に日本のまき網漁獲成績報告書から求めたまき網の日本東沖漁場と南方漁場(常磐沖合から三陸沖合にかけてと、フィリピンの東方沖合)における操業回数の経年変化とさめ付き操業数(ジンベイザメ)の変化を示した(遠洋水産研究所内部資料)。日本の東沖漁場では、さめ付き操業の年間操業回数は19701980年代には1050回程度で推移していたが、1990年代に入って年間50200回へと急増した。これは北部まき網船がカツオを主体とした操業を展開したためで、結果としてさめ付き操業が多くなった。南方漁場では19801990年代前半まで年間20100回程度で推移している。これらの資料がどの程度ジンベイザメの出現頻度を表しているのかは検討中であるが、少なくともジンベイザメの出現頻度が歴史的に減少しているような様子はみられない。

2. 日本のまき網漁獲成績報告書資料から求めた、まき網の日本東沖漁場(常磐沖合から三陸沖合)

と南方漁場(フィリピン東方沖合)における全操業数の経年変化とサメ付き操業数の変化

 

【漁獲圧の動向】本種を直接目的とする漁業がないので、最もよく混獲されると考えられる定置網の設置数を検討した(3)。過去30年間で大型定置網の稼働統数は800から1980年代に900に増加し1990年代には再び800付近に減少した。小型定置の稼働統数は1980年代前半に16,000ヶ統に達し、以後減少して2003年では約12,400ヶ統である。さけ定置網の数は期間を通じて増加し、約400から900ヶ統となった。大型、小型、さけます定置網の合計では、1970年に約12,000ヶ統であったものが1980年代前半には最も多い約18,000ヶ統に達した。以後徐々に減少し、2003年では約14,000ヶ統になっている。これら定置網がジンベイザメに対し漁獲圧力となるかどうかは不明であるが、仮に漁獲圧として働いているのであれば、19801990年代に漁獲圧が徐々に減少したことになるだろう。

3. 1970年から2003年までの日本沿岸における定置網漁労体数の推移

(農林省統計情報部 1972-1973、農林水産省統計情報部1974-2003、農林水産省統計部 2004-2005

 

管理方策

IUCN(国際自然保護連合)はジンベイザメを、過去に対象漁業によって漁獲量と資源が減少したこと、再生産率が低いこと、そして将来的に対象漁業と混獲により資源が減少する可能性があることから、危急種に分類している。ジンベイザメは2000年のワシントン条約第11回締約国会議では米国により附属書II掲載が提案されたが否決され、2002年の第12回締約国会議でインド、フィリピン共同の附属書II掲載が提案され、採決の結果、可決された。

 我が国にはこの種を目的とした漁業が存在しないので、積極的な漁獲努力は行われていない。しかし、周辺諸国(台湾、フィリピンなど)ではジンベイザメの商業漁業が存在するので、わが国としてもこれらの種の消長を注意深くモニターする必要があるだろう。

 我が国においては、偶発的に定置網漁業に混獲する本種の混獲情報を系統的に収集する仕組みが整っていないため、本種の混獲に関する情報は大変少ない。資源評価や保護施策実施のためには、情報収集システムの確立が急務である。

 

執筆者

 水産庁 増殖推進部 研究指導課

 中野秀樹

 まぐろ・かつおグループ

 混獲生物サブグループ

 遠洋水産研究所 混獲生物研究室

松永浩昌

 

ジンベイザメ(日本周辺)の資源の現況(要約表)

資源水準

調査中

資源動向

調査中

世界の漁獲量

(最近5年)

調査中

我が国の漁獲量

(最近5年)

年間数尾から数十尾程度の混獲?

管理目標

検討中

資源の状態

検討中

管理措置

情報収集システムの構築

管理機関・

関係機関

CITES

 

参考文献

Anon.(鹿児島水族館). 2001.  鹿児島県の海にやってくるジンベイザメ.  さくらじまの海 20014巻第4 通巻13: 2-3.

Clark, E. 1992.  Whale sharks. National Geographic, 182(6): 120-138.

Compagno, L.J.V. 2001.  Sharks of the world. An annotated and illustrated catalogue of shark species known to date. FAO Species Catalogue for Fishery Purposes No.1, Vol.2. FAO, Rome, Italy.  269pp.

Eckert, S.A. and Stewart, B.S. 2001.  Telemetry and satellite tracking of whale sharks, Rhincodon typus, in the sea of Cortez, Mexico, and the North Pacific Ocean.  Env. Biol. Fish., 60: 299-308.

岩崎行伸. 1970.  西部太平洋カツオ漁場におけるジンベイザメの分布と二、三の生活環境条件について.  東海大学紀要海洋学部, 4: 37-51.

Joung, S.J., Chen, C.T., Clark, E., Uchida, S. and Huang, W.Y.P. 1996.  The whale shark, Rhincodon typus, is a livebearer: 300 embryos found in one ‘megamamma’ supreme.  Env. Biol. Fish., 46: 219-223.

Last, P.R. and Stevens, J.D. 1994.  Sharks and rays of Australia. CSIRO, Australia.  513pp.

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http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kako/200307/02.html  (20051117)

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http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kako/200407/28.html  (20051117)

長崎新聞. 2005.  巨大ジンベエザメ定置網にかかる 五島.  In 長崎新聞 (), 過去のニュース (県内) [2005113].

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自然資源保全協会(). 2002.  平成13年度サメ・海鳥保全管理プログラム作成等調査並びに鮫の利用の推進に関する啓蒙普及報告書(現地調査および資料収集編).  自然資源保全協会, 東京. 74 pp.

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自然資源保全協会(). 2004.  平成15年度サメ・海鳥保全管理プログラム作成調査並びに鮫の利用の推進に関する啓蒙普及報告書(国内現地調査および啓蒙普及活動編).  自然資源保全協会, 東京. 34+16 pp.

自然資源保全協会(). 2005.  平成16年度サメ・海鳥保全管理プログラム作成調査並びに鮫の利用の推進に関する啓蒙普及報告書(国内現地調査および啓蒙普及活動編).  自然資源保全協会, 東京. 34 pp.

内田詮三. 1995.  3. ジンベエザメ.  In日本水産資源保護協会 (), 日本の希少な野生水生生物に関する基礎資料 (II).  日本水産資源保護協会, 東京.  146-153 pp.

矢野憲一. 1976.  鮫の世界.  新潮社, 東京.  230 pp.

読売新聞. 2005.  722 ジンベエザメとランデブー.  In 読売新聞 (), 読売オンライン フォトニュース.

http://show.yomiuri.co.jp/photonews/photo.php?id=7670  (20051117)

 

注:ジンベイザメとジンベエザメの表記は原文のままとした。