クロカジキ 太平洋

Blue Marlin, Makaira nigricans


 

最近一年間の動き

太平洋のクロカジキに関しては、ISCSPCIATTC等関連諸機関と協力して資源評価を行うことを企画している。具体的な作業を2007年から開始する予定である。

 

利用・用途

生あるいは冷凍にて港へ運ばれ、切り身や冊、ステーキ用の切り身の状態で流通する。刺身、粕漬け、味噌漬け、惣菜原料、ステーキ、練り製品、あるいは味噌煮等の缶詰として食用とされる。

 

漁業の概要

本種が主対象の漁業は、沖縄で行われているひき縄や、古くから各地にて行われている突きん棒等のような沿岸零細漁業である。また、米国や中米諸国、オーストラリア、ニュージーランド、日本等のスポーツフィッシングにおいても主要な対象魚としている。しかしながら、漁獲量の大半は、まぐろ類やメカジキを対象としたはえ縄漁業の混獲であり、また、まき網漁業や流し網等での混獲としても漁獲されている。

FAOの統計によると、2004年のクロカジキ(太平洋)の漁獲量は19千トンであるが、この数字は日本、韓国、台湾、フィリピン、北マリアナ諸島、グアム、米領サモアの合計値で、かじき類を魚種別に分類せずに報告している国等の漁獲量が含まれていないため、実際の漁獲はこれよりも多くなることに留意する必要がある(1)。各国の漁獲量については、1950年代には日本の漁獲量が第2次世界大戦後のはえ縄漁業の拡大に伴って増加し、3万トンを超える漁獲が記録された。その後、1970年代にかけて1万トン前後まで減少したものの、台湾等による漁獲増加により、1970年代後半以降は1.5万〜2.0万トンで推移してきた。近年は日本の漁獲量が5千トン前後で推移しているが、台湾が1980年代以降に漁獲量を大きく増大させ、2003年には台湾のみで1.5万トンの漁獲が記録された。

1. 1951年〜2004年の本資源の国別漁獲量

クロカジキの漁獲量を他のかじき類と分別していない国の漁獲量は含まれていない(FAO統計より)。

 

FAOの統計にクロカジキとして集約されていない国別漁獲量に関しては、IATTCSPCが対応海域において調査を進めている。中西部太平洋におけるクロカジキ漁獲量はSPCにより推定されており(北半球:西経150度以西、南半球:西経130度以西)、台湾(6.3千トン、43%)が最も多く、次いで韓国(2.9千トン、20%)日本(1.7千トン、12%)、の比率が高いことが報告された(2)。なお、これらの漁獲量は推定値であり、実際の漁獲量は台湾やフィリピン、インドネシア等については漁獲量が過少評価されていると考えられる。

2. 2003年中西部太平洋のはえ縄によるクロカジキ漁獲量推定値(トン)とその割合

SCTB会合での集計値を使用。

 

また、東部太平洋についてはIATTCが漁獲量の集計を行っており、近年の漁獲量は34千トンで推移している。国別では、日本が2千トン前後で最も多く、他には台湾、韓国、コスタリカ、仏領ポリネシア、バヌアツ、米国等の漁獲が記録されている。

我が国におけるクロカジキの漁業種別漁獲量は、遠洋・近海まぐろはえ縄が7割以上を占めており、次いで流し網(〜1980年代)や沿岸まぐろはえ縄(1980年代〜)の割合が高い(3)。なお、図3では遠洋・近海まぐろはえ縄以外の統計資料はクロカジキとシロカジキの合算値であるため、漁獲比率は不明であるが若干数のシロカジキが含まれている。

3. 我が国の漁業種別漁獲量

遠洋・近海まぐろはえ縄以外の統計資料はクロカジキとシロカジキの合算値であるため、

 

 

生物学的特性

中村(1985)は外部形態の観察により、太平洋およびインド洋に分布するクロカジキ(Indo-Pacific Blue MarlinMakaira mazara)と大西洋に分布するニシクロカジキ(Atlantic Blue MarlinMakaira nigricans)は別種であるとした。この研究は広く受け入れられていたが、近年行われたmtDNA解析の結果、両者に遺伝的な差が無いことが示され(Graves and McDowell 1994Buonaccorsi et al. 1999)、FAOの統計では両者の名称を英名Blue Marlin、学名Makaira nigricansに統一するに至った。ただし、これらの遺伝学的研究は情報量が少なく、標本の形態観察を行っていないなど、問題点もある。

太平洋におけるクロカジキの分布は、北緯40〜南緯40度の広範にわたっているが、主として表層水温が24よりも暖かい水域に生息し、北緯20〜南緯25度付近が分布の中心であり、特に西側ほど豊度が高いと考えられる(4)。また、漁獲率や体長組成の変化の比較により、季節的に南北回遊を行うことが指摘されており、雌雄の回遊も異なっていると考えられている。しかしながら、今まで行われてきた標識放流での再捕率が他魚種と比較して非常に低く、回遊経路についてはあまり知られていない。

成熟体長(眼後叉長)については、雄で130140cmNakamura 1985)、雌では東部太平洋において170180 cmUosaki et al. 1999との報告例がある

4. 本資源の分布

 

産卵場は、Nishikawa et al.1985)によれば、稚魚の分布状況から西経130度以西の赤道を挟む南北20度の海域で、赤道付近では少なく、その南北に分かれる傾向が見られる。産卵期は、北西太平洋では46月、赤道周辺では周年(Nishikawa et al. 1985)、中部北太平洋で59月(Hopper 1989)、南緯15度のグレートバリアリーフ周辺で113月頃(Skillman et al. 1976)という報告例がある。

年齢と成長の関係については、Skillman et al. (1976)では、4歳までは雌雄の成長に差が無く、182 cm2145 cm4250 cmで、その後は雄と雌で成長が異なり、雌のほうはそのまま大きくなるが雄は成長が鈍るとしている。最高年齢は15歳以上との報告例がある(de Sylva 1974最大体長については、雄で300 cm、雌で540 cm(約1,060 kg)と推定されている。しかしながら、これらの推定で高齢魚のデータ数が少ない等の問題があることや、年齢査定が他魚種と比較して難しいため、使用する年齢形質によって他の報告例と推定値が大きく異なっていることから、研究を進め更なる精度の向上が望まれるところである。なお、スポーツフィッシングで記録されている最大の個体は、1971年にハワイ沖で釣獲された819 kgのものである。

活動水深帯は主として表層混合層であり、食性は、魚類や頭足類が主である。活動水深帯に関しては、20025月末に沖縄県周辺海域において推定重量80 kgの個体にポップアップタグを装着・放流した結果によると、10 m以浅での滞在時間が80%を超えており、表層に滞在する割合が非常に高かった(5)。

 

5 沖縄県与那国町で放流したクロカジキ(推定体重80kg)の527日〜621日の遊泳水深

 

 

資源状態

2001年に開催された第3回国際かじき類シンポジウムにおいて、遠洋水産研究所と、米国のNOAAおよびIATTCの協力の下、太平洋のクロカジキの資源量をMULTIFAN-CLにより解析した論文が発表された(Kleiber et al. 2003)。この解析については、2002年に行われた第15SCTB会合において、内容を改良したものが報告された(Kleiber et al. 2002)。

この資源解析では、クロカジキが太平洋で単一の資源を形成すると仮定し、6の海区割りを用いて解析が行われた。

6 資源量推定に使用した海域区分とCPUEの分布 (Kleiber et al. 2002)

 

解析の結果、クロカジキの資源量は1960年頃に大きく減少し、その後はあまり変動しなかったものの、1990年頃から若干増加し、現在の資源量は約4万トンと推定された(図7)。

7 推定された各海域の資源量 (Kleiber et al. 2002 改変)

海域区分については、前記図6に準ずる。赤で示されているのは、

漁業が存在しなかったときの資源量の予測値である。

 

資源は1960年代から1990年代にわたってF/FMSY1を超え、長期間MSYレベルを超える漁獲圧にさらされている(8)にも関わらず、この期間に、漁獲量はMSY付近で安定しており、また、近年は資源量も増加している。これは、1970年以降に加入量が一貫した微量増加傾向を示している事(9)に起因していると考えられる。

8 漁獲係数の経年変化 (Kleiber et al. 2002)

MSYを与える漁獲係数に対する各年の漁獲係数の比(F/FMSY)で示す。

 

9 水域別推定加入量 (Kleiber et al. 2002)

海域区分については、前記図6に準ずる。

 

これら一連の解析については、漁船から送られてくる体長データの漁獲尾数に対するカバー率が低く、体長250cm以上の大型個体が非常に少ないことや、雌雄で成長が異なるものの解析では一つの成長曲線のみを仮定していること、ハビタットモデルで行われているCPUEの標準化は必ずしも完璧ではないこと等、検討すべき問題が未だ多い。今後、水域別季節別性別の体長データ収集、成長と成熟に関する信頼性の高い情報の収集、回遊経路の推定等基礎的な生物学的知見に関する研究を進めることに加えて、雌雄による成長の違いを扱うことの出来る統合モデルについても検討していく必要がある。

 

管理方策

資源量に関する研究が進められているものの、国際漁業委員会等においては、漁獲に関する規制は行われていない。先述した漁獲統計や資源量推定によると、近年の資源量は概ねMSY水準にあり、近年は増加傾向にあることが指摘されていることから、管理措置を施す必要がある水準までは悪化していないと考えられる。しかしながら、各国の漁獲量統計においてクロカジキを他のかじき類とともに合算して報告している場合もあること、成長や成熟等の資源解析に使用されるデータも十分ではないことから、資源評価の精度は高いとは言えないと考えられる。よって、より正確な生態・漁業に関する情報を収集し、資源状態を解明していく必要がある。

また、これ以上漁獲圧が高まるとMSYを越え、資源状態が悪化することが解析結果から示されているので、資源状態が明らかになるまでは、現在の漁獲水準を急激に増加させることは避けるべきであると考えられる。

 

クロカジキ(太平洋)の資源の現況(要約表)

資源水準

中位

資源動向

増加

世界の漁獲量

20002004年)

1823千トン

平均:20千トン

FAO統計値、クロカジキを分類して報告していない国の漁獲量を含まない)

我が国の漁獲量

20002004年)

5.88.9千トン

(シロカジキを若干含む)

平均:6.2千トン

管理目標

検討中

資源の状態

BMSYレベル

管理措置

検討中

管理機関・

関係機関

WCPFCISCSPCIATTC

 

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ 

 熱帯性まぐろサブグループ

 遠洋水産研究所まぐろ研究室

 余川 浩太郎

 

参考文献

Buonaccorsi, V. P., K.S. Reece, L.W. Morgan, and J.E. Graves. 1999.  Geographic distribution of molecular variance within the blue marlin (Makaira nigricans): a hierarchical analysis of allozyme, single-copy nuclear DNA, and mitochondrial DNA markers.  Evolution 53: 568–579.

de Sylva, D.P. 1974.  Life history of the Atlantic blue marlin, Makaira nigricans, with special reference to Jamaican waters.  In R.S. Shomura and F. Williams, (eds.), Proceedings of International Billfish Symposium. Part 2.  NOAA Tech. Rep., NMFS SSRF 675.  80 p.

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Graves, J.E., and J.R. McDowell. 1995.  Inter-ocean genetic divergence of istiophorid billfishes.  Mar. Biol. 122: 193–204.

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