キハダ インド洋

(Yellowfin Tuna, Thunnus albacares)

最近一年間の動き

20032004年にかけて、西インド洋熱帯域においてまき網船(主に素群れ操業)およびはえ縄船による大量漁獲が記録されたため、2003年には約46万トン、2004年には約51万トンと2年続けて過去最大の漁獲量を記録した。この大量漁獲が資源評価結果にどのように影響するかは現在のところ不明である。しかし、2004年以降のデータは、20057月のIOTC7回熱帯まぐろ作業部会で行われたキハダの資源評価の際には含まれていないこともあり、2005年に起こったアラビア海での台湾のはえ縄船による大量漁獲の兆候と合わせ、注意深くモニターしていく必要がある。

 

利用・用途

刺身や缶詰原料などが主な利用用途である。

 

漁業の概要

キハダの国別漁獲量(19502004)を付表1に、また国別および漁法別漁獲量の推移を1に示した。インド洋におけるキハダの大半は南緯10度以北およびモザンビーク海峡付近で漁獲されている(2)。

1 インド洋における国別(上図)および漁法別(下図)キハダ漁獲量の推移(19502005年)

 

2. 主要漁具(黄:はえ縄、赤:まき網水色:竿釣り)によるキハダ漁獲量の分布

インドネシアおよびNEI船の漁獲は含まれていない。

 

インド洋においては、大規模なまき網、はえ縄および竿釣りによる漁獲が大部分を占める他の海洋とは異なり、キハダ総漁獲量の2127%が小規模な地域漁業(主に流し網および竿釣りなど)によって漁獲されるのが特徴である。本種の総漁獲量は1950年から西インド洋でフランスおよびスペインのまき網漁業が本格的に開始される1983年までは、最大9.2万トンであり、特に19541971年においては、はえ縄による漁獲が大半(79割)を占めていた。まき網漁業開始後の1984年からは、漁獲量は10万トンを超えて急増を続け、1993年には最大の40.7万トンに達し、その後は2002年まで3236万トンの比較的高い漁獲で推移している。しかし、この漁獲量の増加は決してまき網によってのみもたらされたのではなく、1992年以降のはえ縄による漁獲の増加(1993年には最大の19.6万トン)、1994年以降6~11万トンにおよぶ流し網による漁獲などによっても漁獲が押し上げられている。200年の総漁獲量は過去最大の51万トンに達し、そのうちの23.4万トン(45.7%)がスペイン・フランスを中心としたまき網(ほとんどが西部インド洋で操業)、10.3万トン(20.2)が台湾、インドネシア、日本を中心としたはえ縄、その他10.5万トン(20.6%)が流し網(主にイラン、オマーン、スリランカ)、1.5万トン(2.9%)が竿釣り(主にモルジブディブ)などの漁業で漁獲されており、他に便宜置籍船などの漁獲が5.4万トン(10.6%)となっている。20032004年におけるこの急激なキハダ漁獲量増加の原因としては、主に次の4点が考えられ、それらが複合的に絡みあって発生したとみられる。

(a)           大量漁獲が発生した西インド洋熱帯域の特定エリアで、中型のキハダやその餌生物(まき網ではシャコ類、はえ縄ではワタリガニ類など)にとって最適な環境状況が発生した。

(b)          卓越年級群による加入量増加

(c)          大量漁獲の情報を入手したはえ縄、まき網漁船が集中したこと(過剰な漁獲努力量)

(d)          まき網における全周ソナーの普及

まき網漁業において、スペインによる漁獲量は1984(1.1万トン)から1995(6.5万トン)まで単調に増加した。その後2001(4.8万トン)まで減少したが、翌年から2004(8.1万トン)まで急増した。フランスのまき網船による漁獲量は1988年には約6万トンにまで急増し、その後減少して34.5万トンの範囲で変動していたが、大量漁獲のあった20032004年にはそれぞれ6.4万トン、6.5万トンであり過去最大となった。日本のまき網船は、1977年より現在まで独立行政法人水産総合研究センターの調査船「日本丸」がインド洋全域で試験操業を行っている。1989年より一般操業船が加わり、19911994年には11隻のまき網船が0.51.2万トンを主に東インド洋で漁獲した。

まき網の操業形態は大きくふたつに分けられる。1つはFADs(人工集魚装置)を主とする流れ物についた魚群を対象とする操業であり、カツオやメバチ若齢魚と群れをなす3080 cm(モードは5060 cm)の若齢魚、および80160 cm(モードは110120 cm)の大型魚が漁獲される漁法である(図3)。

他の1つは素群れを対象とする漁法であり、FADsなどに留まっておらず自由に遊泳しているキハダ単一群もしくはカツオとの混合群を漁獲し、この漁法では80160 cm(モードは120130 cm)の大型のキハダが主に漁獲される(図3)。19992003年において、FADs操業は全操業の5060%(成功した操業の6070%)を占める。なお、20032004年にまき網で大量漁獲されたキハダのサイズは非常に大きく110150 cmが中心である。

3. まき網の付き物群(FADs)操業と素群操業で漁獲されるキハダの体長分布(19822001)

(Fonteneau et al. 2001を一部改変)

 

はえ縄漁業に関して、1989年までは平均3.5万トンの低レベルでコンスタントな漁獲量であった(最大7.9万トン)。その後漁獲量が急増し、1993年には最大の19.6万トンを記録した。その後は漁獲量が急減し、19942004年には812万トン(平均9.8万トン)で推移している。1952から1968年までは、日本のはえ縄漁業によるキハダの漁獲がインド洋全体の過半数を占めていたが(ピークは1968年の4.8万トン)、その後の韓国、台湾船の台頭および1980年代後半からのインドネシアおよびNEIはえ縄船の増加により、最近10年間では日本のキハダ漁獲は全体の1523%(平均17%)になっている。2003年における日本はえ縄船によるキハダの漁獲尾数の分布を図4に示す。はえ縄漁業で漁獲されるキハダの体長範囲は、およそ80160 cmである。

図4. 2003年における日本はえ縄船によるキハダの漁獲尾数の分布

 

 最近10年間では、インド洋におけるキハダ総漁獲量の21-27%が途上国の小規模漁業(流し網および竿釣り)で漁獲されている。(それらの2004年の漁獲量は12万トンに達し、キハダ漁獲量全体の24%となっている)しかし、多くの沿岸国・島嶼国のでは小規模漁業の漁獲統計収集システムが不明なものが多く、その正確な漁獲情報を把握することが困難な状態にある。そこで、2002年よりIOTC(インド洋まぐろ委員会)とOFCF(海外漁業協力財団)による5年間のインド洋まぐろ統計共同改善事業が開始した。特に、インドネシア、スリランカ、タイ、モルディブなどでサンプリングプログラムや統計収集システムの改善を実施し、成果があがっている。

 

生物学的特性

キハダはインド洋の主として熱帯および亜熱帯域に広範に分布するが、はえ縄漁獲データを見る限り、特に西インド洋においては南緯40度付近にまで分布しているようである(図5)。通常は大きな魚群を形成しており、3050 cmの若齢魚はカツオや若齢のメバチとの混合群を形成し、主に熱帯域の表層分布が限られているのに対し、90 cm以上の個体はより広い海域の表層から水温躍層付近にまで分布する。5080 cmの個体は公海域における主要漁業であるまき網やはえ縄で漁獲されることはまれであり、その生態は明らかになっていない。しかし、この体長幅の個体がアラビア海の小規模漁業で多く漁獲されることが知られていることから(Ariz et al. 2002)、この海域がそのような中型個体の索餌域ではないかと推測され、アラビア海における標識放流によって本種の回遊経路を解明する計画がなされている。

5. インド洋におけるキハダの主要な分布域

 

キハダの分布水深に関して、インド洋では直接的な観察例が海洋水産資源開発センター(1985-1988), Mohri and Nishida(2002)Liu-xiong et. al.(2006)により報告されており、はえ縄およびまき網によるキハダの漁獲データと海洋環境データを比較した結果、果キハダが20°Cの水深付近、すなわち水温躍層付近に多く分布し、また溶存酸素濃度2.0 ml/Lがその分布の限界となっていると推定された (Marsac 2002: Romena and Nishida 2001)

インド洋における本種の系群構造は明らかではない。これは、はえ縄漁業情報の解析によると、本種はインド洋の東西で統計的に有意な差があり異質なものとなっている(Morita and Kato 1970Nishida 1992)が、DNA解析では異系群の存在を示す証拠は得られていない(Nishida et al. 2001)ためである。このため、現在は、資源評価の際には単一系群として扱われている。

産卵は121月に赤道域(010°S)で行われるが、主な産卵海域は東経5070度の間であろうと推測されている。初回成熟体長は110 cmと推定されており、当歳魚は7月にまき網による流れ物操業で主に漁獲され始める。キハダでは一般に大型の漁獲個体で雄の比率が高くなることが知られているが、インド洋では150 cm以上でその傾向が認められる。

本種のインド洋における成長に関する知見はあまり多くないが、近年では耳石日周輪の観察に基づくvon Bertalanffyの成長式による推定(Stéquert et al. 1996)と、まき網と流し網漁獲物の体長データに基づく2段階の成長様式を仮定したtwo-stanza成長式による推定(Lumineau 2002Viera 2005)がなされている(6)。後述する2005年に行われた資源評価の解析作業には2種類(Stequert型およびLumineau型)のtwo-stanza成長式が用いられたが、これらの成長式が実際の年齢形質に基づいて求められたのではなく、漁獲サイズの分布から間接的に求められており、漁獲の状況をよく説明するとはいえ、その信頼性には疑問が持たれる。両式から求められる各年齢における尾叉長を6に示す。

6. 最近の資源評価で使用されたキハダ2種類の成長式によるグラフ(IOTC 2005、一部改変)

 

本種の寿命は正確には判っていないが、年齢査定の結果や成長が速いことから、メバチより短い710年であろうと考えられている。

また、通常解析に用いられる体長(尾叉長)-体重関係式は以下の通り(Hallier 1991)である(1)。この体長-体重関係式は体長64cmを境に2つに分かれていたが、今回の資源評価では、従来の64cm以上の関係式のみが使用された。

 

1.  尾叉長-体重関係

尾叉長(cm)

体重(kg)

20

0.15

30

0.50

40

1.20

50

2.36

60

4.12

70

6.58

80

9.88

90

14.15

100

19.50

120

33.97

140

54.32

160

81.57

180

116.76

200

160.93

Hallier 1991より算出)

W=a*FLb, a=1.585×10-5, b=3.044983

本種の胃中には魚類や甲殻類、頭足類等幅広い生物が見られ、それほど嗜好性はないようである。稚仔魚時代には、魚類に限らず多くの外敵がいるものと思われるが、あまり情報は得られていない。遊泳力が付いた後も、まぐろ類を含む魚食性の大型浮魚類による被食があるが、50 cm以上に成長してしまえば、大型のかじき類、さめ類、歯鯨類等に外敵は限られるものと思われる。

インド洋における本種の自然死亡率(M)に関する直接的な評価は、これまでなされていない。2005年の熱帯性まぐろ作業部会は、2に示したようにSPC(西部太平洋で行われた標識放流の結果)ICCATで用いられているMを代用した。

 

2. 最近の資源評価で使用されたインド洋キハダの自然死亡係数(M)代用値

年齢

0

1

2

3

4

5

6+

SPC

0.9

1.3

0.6

0.6

0.6

0.6

0.6

ICCAT

0.8

0.6

0.6

0.6

0.6

0.6

0.6

 

 

資源評価

20057月に開催されたIOTC7回熱帯性まぐろ作業部会におけるキハダの資源評価では、使用する資源評価モデルについての制約は設けないという議長の判断もあり、提案された4種類のモデル(ASPM (age-structured production model)Bayesian two age-classes production modelPROCEANCATAGE (i.e. Multi-fleet statistical CAA model))を用いて資源評価が行われ、参考としての扱いであるCATAGEを除く3種類のモデルによる解析結果が採択された。

いずれのモデルでも、1980年代半ば以降増加している漁獲係数の経年変化の傾向は良く似ており、MSY3035万トン前後と推定された。これは19992002年の平均漁獲量345,200万トンとほぼ一致している。しかし、20032004年にかけての大量漁獲(約4551万トン)をまったく反映していないために注意が必要であり、まき網による漁獲を減らすべきとの認識で一致した。

CPUEの標準化に関しては、スペインのまき網船によるキハダのCPUE標準化(素群操業のみを使用)GLMによって行った (Soto et al. 2005)。ただし、情報不足のため素群操業とFAD操業の努力量をうまく分離出来ないこともあり、上昇傾向にあるCPUEが現実のトレンドを反映していないのではないか、という意見が多かったため、今回も最終的に資源評価には使用されなかった。

はえ縄のCPUE標準化に関しては、日本(Shono et al. 2005)と台湾(Wang et al. 2005)が報告し、いずれのCPUE1960年代に急激に減少しており、その後特に1980年代以降はあまり変動がなく、絶対値のレベルは異なるが年変動はかなり類似した傾向を示した(7)。会議では、日本と台湾の間で使用する説明要因を出来るだけ揃えた上で(しかし台湾は枝縄データが少ないため、枝縄情報の代わりに他魚種のCPUE(カテゴリーに分離)を説明要因として使用した)、同じ環境データ(今回はSST (sea surface temperature)およびMLD (mixed layer depth)2つを利用)を用いた。これらのはえ縄による標準化されたCPUEシリーズは、4種類(ASPMBayesian two age-classes production modelPROCEANCATAGE)全ての資源評価モデルにおいて、チューニング指標として利用されたが、Bayesian ASPMでは1つのインデックスしか使用出来ないため、日本と台湾のCPUEシリーズを分散の逆数で重み付けしたものを使用し、PROCEANでは一部でCPUEの代わりに努力量を用いた。(Nishida and Shono 2005Mosqueira and Hillary 2005)

7. 日本と台湾のはえ縄漁業におけるキハダの標準化された相対的な資源量指数

 

資源評価結果については最終的な合意に至らず、3種類の解析による結果を併記する形で落ち着いたが、主な理由としてASPMでは近年の資源量が減少傾向にあるのに対して、他の解析では横ばいになっていることが挙げられる。そのため、体長組成サンプルの充実などデータ整備とともに、情報を統括的・合理的に処理できる資源解析手法(Stock Synthesis II (SS2)に代表される統合モデルなど)の利用を今後試みていくことが、本熱帯まぐろ作業部会で合意された。

 

管理方策

200312月の第8IOTC年次会合において、以下の勧告が表明された。

·        24m以上の漁船数を2003年のIOTC登録漁船数以上に増加させない(努力量の凍結)

 

また、キハダ資源に関する管理方策に関し、第9回科学委員会(200611月)で、下記の項目が勧告された。

·                      2003年および2004年におけるキハダ大量漁獲に関し、もし加入量の増加により資源量が一時的に増大したことが原因となる場合、資源に悪影響を与えることは少ないと見られる。しかし、大量漁獲の原因が、漁獲効率の増加や大きな漁獲努力量である場合、資源に悪影響を与えていることになるので、今後資源評価で資源状況を注意深くモニタリングしてゆく必要がある。

·                      FADsを利用したまき網漁業による若齢キハダへの漁獲圧の増加は、YPR解析の結果、今後継続した場合、資源にとって悪影響を及ぼすと見られる。その理由は、漁獲している体長が、加入量あたりの漁獲量を最大にする体長レベルをはるかに下回っているからである。従って、FADs操業を減少させる必要がある。但し、FADsを利用したまき網ではカツオを主に漁獲しているが、小型キハダは混獲となっている。従って、小型キハダを削減する管理案は(資源状況が健全な)カツオの漁獲量を減少することなる点に留意する必要がある。

·                      2005年に行った資源解析の結果、最近年の漁獲量はMSYに近いかそれを越していると見られるので、全ての漁業は、1999-2002年平均レベルの有効漁獲努力量かつ漁獲量を越えるべきでない。

また、魚種に関わらず共通する漁業管理方策(努力量規制など)に関しては、第10回本会議(20066月)までに決議ないし勧告された項目を、インド洋のメバチの稿(第18章)に一覧している。

 

キハダ(インド洋)の資源の現況(要約表)

資源水準

中位

資源動向

横ばい

世界の漁獲量(最近5年)

32.351.2万トン

平均:39.6万トン

我が国の漁獲量

(最近5年)

1.5~1.9万トン

平均:1.7万トン

管理目標

MSY3035万トン

資源の状態

B/BMSYF/FMSYなどの値は解析手法によって異なるが、いずれの結果も現状の資源量はMSYレベルかややそれを下回る程度

管理措置

24 m以上の漁船数を2003年のIOTC登録漁船数以上に増加させない(努力量の凍結)

管理機関・

関係機関

IOTC

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

 熱帯性まぐろサブグループ

 遠洋水産研究所

熱帯性まぐろ資源部

庄野 宏

国際海洋資源研究員

西田 勤

 

参考文献

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付表1. インド洋キハダの国別漁獲量(単位:トン)