大西洋クロマグロ 西大西洋


Atlantic Bluefin Tuna, Thunnus thynnus


 

最近一年の動き

 2005年の漁獲量は1982年に漁獲規制が導入されて以降で最低水準(2,023トン)であった2004年をさらに下回り1,826トンにとどまった。20064月にマジョルカ島(スペイン)にて第4回クロマグロ管理戦略会議が開催され、産卵親魚の保護を目的とする産卵場での禁漁期、禁漁区、東西系群の混合を考慮した新たな資源管理の枠組みについて検討した。6月にはマドリードにて資源評価が行われた。11月の本会議で2007年と2008年のTAC2,100トン(日本は380.47トン)に決定した。

 

利用・用途

 ほぼすべてが刺身やすし用途に用いられている。

 

漁業の概要

 主な漁業国は米国、日本、カナダである。日本の漁獲はすべてはえ縄漁業によるものであり、米国およびカナダはRod and ReelもしくはTended Lineと呼ばれる釣り漁業が主体で、はえ縄漁業やまき網漁業も存在する。小型魚を漁獲する漁業は米国のスポーツフィッシングで他は全て中・大型魚を漁獲する。大西洋クロマグロを対象とした我が国のはえ縄漁業は大西洋の熱帯域であるカリブ海からブラジル沖で1963年頃から開始され、年間数万トンの漁獲量に達したが数年でこの漁場は消滅した。その後はメキシコ湾が主要な漁場であった。1970年代の中頃からはニューヨークからカナダのニューファンドランド沖合(北米沖)が漁場に加わり、1982年にメキシコ湾が操業禁止となって以来主要な漁場となっている(図1。漁期はメキシコ湾が15月、北米沖が113月である。米国の漁期は主に7月から11月、カナダではやや遅れて8月から11月である。

1 .大西洋クロマグロの分布域と主要漁場、産卵場

索餌場は産卵場を除く分布域。縦太線は東西の系群の区分。

 

 西大西洋クロマグロの漁獲量は1981年までは5,000トン前後の水準にあったが1982年以降厳しい漁獲規制が行われ、1983年以降はほぼ2,500トン前後となっている(図2、表12002年の西大西洋における総漁獲量は2,785トンでほぼ19982001年と同等であったが、2003年には3,319トンと1982年以降で最大に達した。その後、2,357トン、2,023トンと減少し、2005年は1,826トンと日米加3国の総クォータ(2,700トン)の約3分の2にとどまっている。この減少の大部分は米国漁業の不漁による。カナダの漁獲量は安定しているが、セントローレンス湾で漁獲される魚の平均サイズが小さくなっていること、かつ痩せてきていることが報告された。他の国については変化がなく、未報告漁獲の存在もないことが統計証明データや輸出入データから示されている。

2 大西洋クロマグロ(西系群)の漁法別漁獲量 19812005年)

データ:Anon. 2006

 

1. 大西洋クロマグロ(西系群)の国別暦年漁獲量

日本

米国

カナダ

その他

総計

1970

66

3,756

1,442

202

5,466

1971

1,375

4,119

1,082

15

6,591

1972

321

3,109

477

41

3,948

1973

1,097

1,698

1,018

58

3,871

1974

905

3,638

768

82

5,393

1975

1,513

2,845

641

33

5,032

1976

2,902

1,931

846

204

5,883

1977

3,658

1,956

972

108

6,694

1978

3,144

1,848

670

101

5,763

1979

3,621

2,297

245

92

6,255

1980

3,936

1,505

324

36

5,801

1981

3,771

1,530

425

45

5,771

1982

292

807

291

55

1,445

1983

711

1,394

433

4

2,542

1984

696

1,320

264

12

2,292

1985

1,092

1,424

142

27

2,685

1986

584

1,656

73

9

2,322

1987

960

1,544

83

5

2,592

1988

1,109

1,504

393

5

3,011

1989

468

1,731

633

35

2,867

1990

550

1,769

438

41

2,798

1991

688

1,781

485

38

2,992

1992

512

1,129

443

31

2,115

1993

581

1,268

459

3

2,311

1994

427

1,239

392

48

2,106

1995

387

1,452

576

11

2,426

1996

436

1,362

597

6

2,401

1997

330

1,385

509

6

2,230

1998

691

1,279

611

10

2,591

1999

365

1,252

587

458

2,662

2000

492

1,279

595

300

2,665

2001

506

1,614

537

61

2,718

2002

575

1,882

641

89

3,187

2003

57

1,530

571

33

2,191

2004

396

1,066

552

10

2,023

2005

302

848

600

76

1,524

データ:Anon. 2006

 

近年の漁獲量は2002年に1982年以降で最高を記録した後、2005年には漁獲規制の導入以降で最低(1,826トン)にとどまった。この減少は米国の漁獲量の減少によっており、米国の2005年の漁獲量は717トンにとどまっている。2003年の日本の漁獲量の減少は、前年までの漁獲枠超過分の調整によるものであったが、2004年には2002年までと同じ程度に戻った。一方、米国の漁獲量は1980年以降では1982年に次いで低い漁獲量にとどまった。これは米国北東岸沖での釣り漁業のCPUEが下がったためである。一方、カナダの漁獲量は安定しているが、セントローレンス湾で漁獲される魚の平均サイズが小さくなっていることが報告されており、2003年以降2006年までのTAC2,700トンで、国別配分は日本478.25トン、米国1,489.6トン、カナダ620.15トン、メキシコ5トン、バミューダおよびセントピエール各4トンである(ICCAT 2003aAnon. 2006)。日本はこのクォータ管理に、8月〜翌7月の漁期年を用いている。

 

生物学的特性

 成長は標識放流結果から推定されている。本種は大きくなると性別による成長の差が認められ、尾叉長255 cm以上の個体の6070%程度が雄であることが報告されている(Maguire and Hurlbut 1984)。最大体長(尾叉長)は3 m以上、寿命は20年以上と考えられている(ICCAT 2003b)。成長曲線と各年齢の体長を32に示す。

3. 大西洋クロマグロ(西系群)の成長曲線。図の矢印は成熟体長を表す。

 

2. 大西洋クロマグロ(西系群)の各年齢時体長(cm)と体重(kg(ICCAT 1997)

年齢

体長 (cm)

1

48

2

74

3

97

4

119

5

139

6

157

7

174

8

190

9

205

10

218

11

231

12

242

13

253

14

262

15

272

16

280

17

288

18

295

19

301

20

308

 

 卵は分離浮性卵で、受精卵の直径は約1 mmである。産卵場はメキシコ湾にあり、5月から6月が産卵シーズンである。成熟年齢は8歳で、東大西洋クロマグロの45歳と比較してかなりの違いがある。産卵数は体長200250 cmの成魚で約3,400万粒と報告されている。大西洋クロマグロは他のまぐろ類に比べてやや沿岸性が強く、北緯30度から45度にその主分布域がある(ICCAT 2003b)。

 メキシコ湾で孵化した稚魚は沿岸に沿って北へ移動し、夏にはコッド岬あたりに達する。

 その後は季節ごとの水温変動に応じて北米沿岸からやや沖合域で、冬期には南下(南限は約北緯30度)、夏期には北上(北限は北緯50度)を繰り返す。標識放流の結果から一部(数%)が、東大西洋(ヨーロッパ沿岸、ノルウェー沖合)・地中海へ渡洋回遊を行うことが知られている。近年、アーカイバルタグ、ポップアップタグ等の電子標識を用いた移動・回遊行動の研究が進展し、従来考えられていた以上に東西の移動が生じていることが示されているが、正確な移動率の算出には至っていない(ICCAT 2002)。

 本種の胃内容物には魚類や甲殻類、頭足類等幅広い生物が見られ、特定の餌料に対する嗜好性はないようである。稚仔魚時代には、魚類に限らず多くの外敵がいるものと思われるが、あまり情報は得られていない。遊泳力が付いた後も、まぐろ類を含む魚食性の大型浮魚類による被食があるが、50 cm以上に成長すると、大型のかじき類、さめ類、歯鯨類等に外敵は限られるものと思われる。

 資源の管理は、ほぼ西経45度を境界として東西に分けて行われてきた。しかし、この境界線のすぐ東側の北中部大西洋での漁獲量の増加や、電子標識による移動・回遊行動に関する知見の増加により、西経45度を境界線として2つの区域に分けて管理する現行の管理に対する疑問が呈されている。

 

資源状態

 大西洋クロマグロは大西洋の東西に2つの分離した産卵場が知られていること、東西間の魚群で成長や成熟サイズ等が異なることから2つの系群、西大西洋系群(西大西洋クロマグロ)と東大西洋・地中海系群(東大西洋クロマグロ)に分けて管理されている。

 資源評価はICCATSCRS(科学委員会)において、加盟国の研究者の共同作業で実施される。評価手法は、年齢別漁獲尾数を基本データとし、資源量指数をチューニングに用いるADAPT VPAが主に用いられている。2006年に実施した資源評価では、1970年から2004年までの年齢別漁獲尾数(110+歳)と、はえ縄CPUE12種類の資源量指数をデータとし、ICCATで公認されたVPAプログラムであるVPA-2BOX Porch 2002)によって評価が行われた。

 

 推定された加入尾数(1歳魚)、親魚資源量(8歳以上)を45に示す(ICCAT 2006)。親魚資源量は1970年以降減少を続けていたが1990年代に入っていったんその傾向が止まった。しかし、1998年以降わずかに減少傾向が見られ、2005年の親魚資源量は1975年の19%となっている。加入は1976年以降低いレベルで安定している。これらの結果から、資源水準は低位、資源動向は親魚資源量が減少傾向にあるもののわずかな変化にとどまるので横ばいとした。

4. 大西洋クロマグロ(西系群)加入量(1歳の尾数)

 

5. 大西洋クロマグロ(西系群)親魚資源重量

 

 前回(2002年)の資源評価では、将来の再生産関係として、親魚資源量が増加した場合、1)加入尾数は低位で一定、2 加入尾数も増加、という2つの関係を仮定し2018年までの将来予測を行った。しかしながら将来予測の結果は、よく分かっていない再生産関係に大きく左右されることから、今回(2006)の資源評価では、今後5年間(2009年まで)の短期の将来予測のみを行った。今後5年間の加入量は、5年程度では親魚資源量の大幅な減少も増加も見込めないことから、過去の平均的な加入量付近で変動すると仮定している。5年という期間は、再生産関係の不確実性が親魚資源量の変動に影響しにくい程度の短期間として選ばれた。またこれ以上長期の将来予測の場合には、大西洋東系群の新たな管理措置の効果も考慮しなければいけないことも理由にあった。将来予測の結果によれば現行のTACの場合2009年までに親魚資源量は毎年3%減少する。FMSY(ここではFMAXで代用している)で漁獲を行えば2009年までに親魚資源量は毎年15%増加する。漁獲量一定方策で同様の効果を得ようとすればTACは、約2,100トンとなる。2006年時点の親魚資源量を維持しようとすればTAC2,300トンになる。SSBMSYに対応する資源量は、従来からSSBMSY の代用として用いられてきた1975年の親魚資源量SSB1975 あるいは、加入量がほとんど変動していない1976年から2001年の間の平均的な加入量の元でFMAXで漁獲を続けた場合に期待される親魚資源量SSBMSY|Rである。2004年時点の親魚資源量はSSB197518%となり、SSBMSY|R41%にあたる。2004年時点の漁獲死亡係数はFMSY1.7倍、経験的に安全な管理基準とされるF0.13.1倍に達している。

 

管理方策

1998年に、ICCAT2018年までに50%以上の確率で最適な資源状態に回復させるという計画を決定した。しかし、同科学委員会は2006年の資源評価で、今後のTAC0としない限り最適な資源状態には回復しないことを示した。一方、短期的にはTAC2,300トンにすれば2006年現在の親魚資源量を2009年まで維持でき、2,100トンでは年に約1.5%の親魚資源量の増加が期待できるとした。2006年の年次会合は20072008年のTACを、2,100トン(我が国は380.47トン)とした。次回予定の2008年の資源評価により、2009年以降の漁獲割当量を改訂する予定である。他の規制は、115 cm(または30 kg)未満の漁獲量制限(国別に10%、経済行為禁止)を併せて実施中である。

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

 クロマグロサブグループ

 遠洋水産研究所 数理解析研究室

 竹内幸夫

 

大西洋クロマグロ(西大西洋)の資源の現況(要約表)

資源水準

低位

資源動向

横ばい

世界の漁獲量(最近5年)

(20012005)

1.83.2千トン

平均:2.4千トン

(投棄を含む)

我が国の漁獲

(最近5年)

57575トン

平均:367トン

管理目標

2018年までに50%以上の確率で親魚資源量をMSYレベルに回復

MSY:3,200トン

資源の状態

SSB2004/SSBMSY :0.18

F2004/FMSY=1.73.1

短期的なRY:2300トン

管理措置

TAC:2,100トン(日本枠:380.47トン)

115 cm(または30 kg)以下の魚の漁獲量制限(10%以下、国別)

管理機関・

関係機関

ICCAT

 

参考文献

Anon. 2006. Report of the Standing Committee on Research and Statistics (SCRS)(Madrid, Spain, 2 to 6 October, 2006). (1)+iii+192 pp. http://www.iccat.int/Documents/SCRS/SCRS%202006%20ENG.pdf  200719日)

ICCAT. 1997.  1996 detailed report for bluefin tuna. (SCRS/96/26).  Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 46(1): 1-186

ICCAT. 1999.  Recommendation by ICCAT to establish a rebuilding program for western Atlantic bluefin tuna. Report for biennial period 1998-99 part I (1998)-vol.1, 67-69.

ICCAT. 2002.  ICCAT workshop on bluefin mixing. Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 54(2): 261-352.

ICCAT. 2003a.  Recommendation by ICCAT concerning conservation of western Atlantic bluefin tuna. Report for biennial period 2002-03 part I (2002)-vol.1, 165-166.

ICCAT. 2003b.  Report of the 2002 Atlantic bluefin tuna stock assessment session.  Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 55(3): 710-937.

Maguire, J.J. and T.R. Hurlbut. 1984.  Bluefin tuna sex proportion at length in the Canadian samples 1974-1983.  Col. Vol. Sci. Pap. ICCAT, 20(2): 341-346.

Porch,C.E. 2002. VPA-2BOX Ver. 3.0 Assessment Program Documentation, ICCAT. (配布終了, 現バージョンのダウンロード先: http://www.iccat.int/downloads.htm 200719日))