クロマグロ 太平洋

Pacific Bluefin Tuna, Thunnus orientalis

 

最近一年間の動き

 20061月にISCクロマグロ作業部会が開催され資源評価作業が行われたが、20063月に開催されたISC本会議で、その資源解析結果には大きな不確実性が残されていることを考えると、本種の資源状態について明確なことは言えないと結論された。メキシコの漁獲量が20069月までで9,706トンと、大きく増大した。9月にはWCPFC北委員会が開催され、ISCでのクロマグロの資源評価にまだ不確実性が高いため、2008年までに資源の再評価をISCに求めた。

 

利用・用途

 我が国では主に寿司、刺身用の高級食材として利用価値が高い。外国による漁獲の多くは日本向けに輸出されている。

 

漁業の概要

 わが国における漁業の歴史は古いが、記録としては1848年からの農商務統計表によるものである。これにはまぐろ類として一括されているが、当時は沿岸漁業によるものが大半であり、多くは本種のものであると推測され、少なからぬ漁獲量が認められる。東部太平洋では1918年から漁獲量の記録が残されており、1935年にはすでに1万トンを越える漁獲が記録されている。

 現在、本種の漁獲の大半はまき網漁業によるものであるが、西部太平洋では、日本、台湾、韓国により、台湾東方沖から日本周辺および三陸沖において様々な漁法で漁獲されている。沿岸では、ひき縄、定置網漁業により周年にわたって主に未成魚が、一方、沖合ではまき網漁業により夏季から秋季に未成魚や成魚が、はえ縄漁業により大型の成魚が漁獲されている。なお、近年は対馬海峡から東シナ海においてまき網漁業による未成魚の漁獲が増えている。東部太平洋では510月に主にメキシコがまき網により漁獲しており、そのほとんどがメキシコでの蓄養原魚となっている。

 太平洋におけるクロマグロの年間総漁獲量は8千トンから34千トンの間を周期的に変動しており、近年では1981年に32千トンを記録した後、1988年に8千トンまで落ち込んだ(図11980年を境に東部太平洋での漁獲量は努力量とともに顕著に減少しており、20012005年の漁獲量は、西部太平洋で12千〜18千トン、東部太平洋で19千トンと推測される(表1

 尾数で見ると、漁獲物の89割は02歳魚で占められ、最近は0歳魚の漁獲が増える傾向にある(図2

1. 国別漁獲量の推移2005年は遠洋水研推定値)

 

1. 太平洋クロマグロの国別漁獲量(2005年は遠洋水研推定値)

日本

韓国

台湾

米国

メキシコ

合計

1981

31,197

0

179

888

218

32,482

1982

22,998

31

207

2,650

506

26,392

1983

19,051

13

175

784

214

20,237

1984

9,761

4

477

738

166

11,146

1985

12,026

1

210

3,530

676

16,443

1986

13,745

344

70

5,197

189

19,545

1987

13,218

89

365

996

119

14,787

1988

6,515

32

305

1,008

448

8,308

1989

8,795

71

464

1,181

57

10,568

1990

6,251

132

338

1,585

50

8,356

1991

12,782

265

342

478

9

13,876

1992

9,988

288

537

2,149

0

12,962

1993

8,305

40

475

797

0

9,617

1994

13,149

50

559

1,090

65

14,913

1995

23,770

821

337

904

10

25,842

1996

12,597

102

956

4,623

3,700

21,978

1997

16,436

1,054

1,814

2,415

367

22,086

1998

9,564

188

1,910

2,255

1

13,918

1999

19,202

256

3,089

666

2,404

25,617

2000

21,181

794

2,782

974

3,128

28,859

2001

13,152

1,005

1,943

422

863

17,385

2002

13,133

675

1,527

410

1,714

17,459

2003

8,920

1,591

1,884

268

3,257

15,920

2004

10,421

636

1,714

45

8,891

21,707

2005

15,748

950

1,366

221

3,246

22,830

 

2. 年齢別漁獲尾数の推移

 

 各国の漁業概要は以下のとおりである。

【日本】 まき網、はえ縄、ひき縄、竿釣り、定置網等により漁獲しており、1993年以前には公海域で流し網によっても漁獲していた。1952年以降、年間漁獲量は6千〜31千トンの間を変動しているが、ここ10年は9千〜23千トンであり、その6割はまき網により漁獲されている(図3。主な漁場は三陸沖だが、1981年より日本海南西部に成魚を対象とした漁場が形成され、さらに1991年からは未成魚を対象とした漁場が形成された(図4。太平洋と日本海のまき網による漁獲量はほぼ同量である。なお、近年では0歳魚を採捕して24年間飼育して出荷する養殖業も発達している。

3.日本の漁法別漁獲量の推移(2005年は遠洋水研推定値)

4.日本周辺の主な漁場分布

 

【韓国】 主に済州島から対馬にかけて操業するまき網により漁獲しているが、表中層トロールによっても僅かに漁獲されている。ここ20年間の年間漁獲量は、301,590トンと推測されており、近年漁獲量が増えている。

【台湾】 主に沖合に広がる産卵場で小型はえ縄漁船が産卵魚を漁獲しているが、過去においてまき網漁業によっても稀に混獲されていた。過去10年の年間漁獲量は9003,000トンで、ここ5年間は1,4001,900トンで安定している。以前は日本へも輸出 していたが、近年はそのほとんどが台湾内で消費されている。

【米国】 漁獲量は大きく変動してきたが、近年は1996年の4,600トンから2004年の45トンに減少している。これは本種を対象とするまき網船がなくなったことによるものである。漁獲は主にカリフォルニア南部からバハ・カリフォルニアにかけての沿岸まき網によるもので、近年はメキシコの蓄養種苗に利用されている。1998年以降スポーツフィッシングによる漁獲も増えており年間30400トンを漁獲している。まき網、スポーツによる漁獲物は主に体長60100 cmのもので構成されており、太平洋中部ではえ縄で漁獲されるものはこれより大きい。

【メキシコ】 キハダ、カツオを対象としたまき網がバハカリフォルニア沿岸で漁獲する。漁獲物全体に占めるクロマグロの割合は非常に小さい。1980年代の漁獲量は60700トンで比較的安定していたが、1989年以降は08,900トンと変動している。近年、キハダの不漁ということもあって、蓄養種苗向け専門にクロマグロを対象として操業する大型船が増加し、2003年は3,200トン、2004年は8,900トンと漁獲が急増した。2005年には一旦3,200トンに減少したが、2006年には9千トンを超えるまで漁獲が増大した。

 

生物学的特性

 これまで太平洋のクロマグロは大西洋に分布するものと地理的亜種とされていたが、近年、分子遺伝学的研究等により両種を別種とする意見が多く(例えば、Collette 1999)、別種として認められている。本種は主に北緯2040度の温帯域に分布するが、熱帯域やわずかながら南半球にも分布がみられる。満1歳で尾叉長5060 cm2歳で8090 cmに成長する(行縄・藪田 1967)。多回産卵で、太平洋では体重60 kg5歳頃)で成熟すると考えられていたが、最近の組織学的研究によると、年変動があるものの日本海では体長100cm超 3歳頃)で8割程度が成熟していることが分かった(Tanaka 2006(図5。寿命は10歳以上と推測されるが、知見はほとんどない。

5. 成長と成熟

 

 産卵期は日本の南方〜フィリピン沖で47月、日本海で78月である(米盛 1989)。01歳魚は日本沿岸を夏季に北上し、冬季に南下する。23歳魚は北太平洋、特に北西太平洋を主な分布域とし、アーカイバルタグ調査から、春季に黒潮続流域を西進、夏季に三陸沖を黒潮分派に沿って北上、秋季に親潮前線に沿って東進、冬季に日付変更線付近の黒潮続流域に向かって南下、という海洋構造に応じた時計回りの回遊パターンを示す Inagake et al. 2001)。個体によっては日付変更線付近まで移動しない場合や、半年〜数年間沿岸の同一箇所に滞在し続ける場合もあり、回遊パターンの変動は大きい。また一部は太平洋を横断して東部太平洋に渡り、北米西岸沖を南北に季節回遊をしながら数年滞在した後、産卵のために西部太平洋へ回帰する。親魚は産卵後、産卵場から南方あるいは黒潮沿いに東方へ移動することがポップアップタグにより解明されている(図6

6. 分布と回遊

 

 仔稚魚は日中にかいあし類や枝角類をよく摂餌し、幼魚はカタクチイワシ、スルメイカをよく摂餌している。成魚の胃袋からはいか類の他、とびうお類、きんときだい類、カツオなど魚類が多く見られる。いずれにしても特定の魚種を選択的に捕食するのでなく、その海域に多い生物を機会的に捕食していると考えられている。また幼魚のときには他のまぐろ類に捕食されるが、大型魚はシャチやさめ類に捕食されるようである(山中 1982)。

 

資源状態

【資源解析】 本種の資源評価はISCで行われている。20061月に行われたISCクロマグロ作業部会ではVPA解析を主体に、Stock Synthesis IISS2)、MULTIFAN-CL などの統合モデルを導入して資源診断された。

 VPA解析では、前回2002年で用いられた漁業データを2005年まで更新したほか、年齢別漁獲尾数の推定やチューニングのための資源量指数が改善された。年齢別漁獲尾数の推定方法は、年齢群の分解精度を上げるために、各漁法別に月単位の測定物体長組成から体長組成分布の見た目から各年齢群に分解する手法に変更した。しかしながら56齢以上の成長式が不確実であること、多くの漁業が周年、あるいはほぼ周年行われているにもかかわらず月別あるいは四半期別漁獲量が不明であるため、漁獲の季節変動の影響が十分に考慮されていないことから、その不確実性がISCクロマグロ作業部会で問題視されている。日本の曳き縄漁業からの0歳魚のCPUEは、日本海側と太平洋側それぞれのデータで標準化を行い、両者を平均したものを用いた。東部太平洋のまき網からの資源量指数は、1980年代前半を境に漁獲物が1歳程度大型化しているため、その前後でチューニング対象年齢を分けて用いた。日本のはえ縄漁業からの親魚の資源量指数は、遠洋・近海船(1952年〜)と沿岸小型船(1994年〜)のデータからそれぞれ推定された。前者は時系列の長さ、後者はクロマグロが多く漁獲される46月の紀伊半島沖合から南西諸島にかけての海域ので主に漁業が行われるためデータが豊富で推定精度という点で優れているが、前者は、同海域での努力量が激減しているという難点がある。沿岸小型はえ縄船からの資源量指数のトレンドは、漁場が近い台湾の小型はえ縄船のトレンドともほぼ一致している。

 得られたVPA結果(図7は、特に1980年代以前の日本のはえ縄や東部太平洋のまき網の資源量指数を上手く説明できない。これはCPUEまたは年齢別漁獲尾数に問題があることを明瞭に示している。1980年代以前のデータはこれを解決するほど質量とも十分でなく、1980年代以前のVPA結果の信頼性はきわめて低いといえる。一方、SS2モデルによる予備的な解析では、1980年以前の資源の動向についてVPAとは異なった傾向を示し(図8、年齢別漁獲尾数、体長・体重データのほか、56歳以上の成長などの生物学的特性値についても大きな不確実性が存在していることを示した。作業部会では、SS2で推定された成長曲線(年齢別漁獲尾数を推定する際に用いた成長曲線より56歳以上で成長が遅い)から暫定的に計算した年齢別漁獲尾数を用いたVPA解析を実施し、成長曲線による感度テストを実施した。その結果、195060年代の資源量推定値は大きく増大したが、近年の推定値は本来のVPA推定値とほとんど変わらなかった。しかしながら資源量指数への当てはまりは改善されなかった。これらのことは今回のVPA結果は用いた成長曲線に大きく依存していることをしめしており、資源状態については明確な結論が導き出されていない。

 

7. VPAから推定された総資源量及び産卵親魚量(上)及び加入量(0歳魚)(下)


8. 予備的なSS2より推定された産卵親魚量(上)及び加入量(0歳魚)(下)

 

【資源の動向】

20061月のISCクロマグロ作業部会での資源解析結果の不確実性を考えると、20063月に開催されたISC本会議は、太平洋クロマグロの資源状態は不明であるとした。

 

管理方策

20063月のISC本会議では、資源解析結果に非常に大きな不確実性があることから予防的措置としてクロマグロに対する漁獲死亡率をこれ以上増加させないことを勧告した。20069月に開催されたWCPFC北委員会では本資源の管理方策が検討されたが、ISCでの資源評価にはまだ大きな不確実性が残っていることから、ISC2008年までに資源の再評価を求めた。同時に、資源評価の不確実性が漁業データの収集状況にあるということを懸念し、本委員会のデータ収集項目に本種を追加することを求めた。

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

 クロマグロサブグループ

 遠洋水産研究所 温帯性まぐろ研究室  

            山田陽巳

生物特性研究室

高橋未緒

数理解析研究室

竹内幸夫

 

クロマグロ(太平洋)の資源の現状(要約表)

資源水準

調査中

資源動向

調査中

世界の漁獲量

(最近5年間)

15,92022,830トン

平均:19,060トン

我が国の漁獲量

8,92015,748トン

平均:12,275トン

管理目標

検討中

資源の状態

資源量は不確か

管理措置

ISCでの漁獲死亡率をこれ以上増やすべきでない、との勧告に沿った自主規制措置の検討

管理機関・

関係機関

WCPFCISCIATTC

 

参考文献

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