まぐろ・かつお類の漁業と資源調査(総説)


世界のまぐろ漁業 

世界の主要6魚種のまぐろ類(クロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガ、メバチ、キハダ、カツオ)の2004年の総漁獲量〈データソースは文末参照〉は前年同様400万トンを超えて、依然右肩上がりの増大傾向にある(図1)。依然として世界第1位を占めている我が国の漁獲量は、実質的には1960年代に入って以降、大きな増減はなく比較的安定しているものの、1984年に約78万トンの過去最高に達した後は減少し、2004年は約52万トンとなった。主要漁業国のうち先進国の漁獲量、特に米国、仏がここ10年間減少傾向にあるのに対し、インドネシアやフィリピン等の開発途上国の漁獲が増加している。また、上位8ヵ国以外の漁獲量が急速に伸びているのも明確である。

1. 世界の主要まぐろ類(含かつお)の国別漁獲量の推移、19502004

 

 これら主要6魚種の漁獲量を大洋別に見てみると、太平洋における漁獲量が1950年当初から他の水域をリードし、そのリードが1970年代以降現在に至るまで急増していることがわかる(2)。インド洋における漁獲量は太平洋には及ばないものの、太平洋に匹敵するほどの漁獲量の増加を示し、1992年は一貫して大西洋の漁獲量を上回るようになっている。これら両大洋の漁獲動向に対し、大西洋の漁獲量は増加が緩やかで、1994年に約58万トンのピークを示した後、横這いからやや低下傾向である。いずれにしても、太平洋における漁獲増が世界全体の漁獲増をもたらしていると見てよい。

2. 世界の主要まぐろ類(含かつお)の大洋別漁獲量の推移、19502004

 

漁獲量の推移を魚種別に見ると、温帯性のまぐろ類(クロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガ)は漁獲量が低迷する一方で、熱帯性のまぐろ類、特にカツオとキハダの漁獲量増加が著しい(3)。メバチも2000年頃までは増加を示したが、最近はやや減少ぎみである。カツオの漁獲量(年代毎の平均漁獲量)1950年代20万トン、1970年代60万トン、1990年代160万トン、2002年以降最近3年間(20022004年)の平均が209万トンと、過去50年間で10倍に増加している。最近のカツオの漁獲量は、それ以外の世界の主要5魚種まぐろ類の総漁獲量に匹敵しており、カツオの漁獲量が如何に多いかが分かる。一方、キハダの漁獲量は1950年代15万トン、1970年代49万トン、1990110万トン、2002年以降最近3年間(20022004年)の平均が140万トンと、カツオには及ばないものの、約50年間で10倍近い増加を示している。

3. 世界の主要まぐろ魚種別漁獲量の推移、19502004

 

まぐろ類は、はえ縄、竿釣り、まき網などで漁獲される。世界のまぐろ類漁獲量の増加は、1980年以降のまき網漁業の漁獲量増加に起因し(4)、まき網以外の漁法による漁獲量がそれぞれ50万トン前後であるのに比べて、2004年には270万トンに達している。この漁獲増には、漁船数の増加に加えて、1990年に入ってこれまでより盛んに行われるようになった人工浮魚礁(FADs)を活用する操業方法が大きく影響している。

4. 世界の主要まぐろ類の漁法別漁獲量、19502005

 

日本のまぐろ漁業

 日本のまぐろ漁業はこれまで世界のまぐろ漁業の中心的存在であったが、前述のように主要6魚種の日本の漁獲量は1984年をピークに減少している。魚種別に漁獲量を見ると、日本のまぐろ漁業における漁獲量も、世界のまぐろの漁獲組成と同様、1970年以降カツオが主体を占めている(5)。大洋別にみると、太平洋での漁獲量(2004年約46万トン)が、インド洋や大西洋の漁獲量(共に同年約4万トン)より圧倒的に多く、近年では全体の90%(20022004年の平均)を占めている。しかし、その太平洋での漁獲量も1986年をピークに減少傾向にある(6)

5. 魚種別、全大洋における日本の漁獲量の推移、19502004

 

6. 日本による主要まぐろ類(含かつお)の大洋別漁獲量の推移、19502004

 

 日本のまぐろ漁業においては、魚種別漁獲量はカツオが圧倒的に多いものの、生産金額は、カツオの魚価が他のまぐろ類より安いこともあって、メバチ、カツオ、キハダの順に高い。高級とされて価格も人気も高いクロマグロやミナミマグロは資源管理措置により漁獲量が減少しており、生産金額も低迷している。

 

市場・蓄養まぐろ

 まぐろ類の三大市場は、日本の刺身・鰹節市場、北米とヨーロッパの缶詰市場である。刺身用のまぐろは日本の高単価市場を目指して世界中から集まっている。この構図は昨今変わりないが、健康食ブームにより米国やヨーロッパで魚食が見直され、特にまぐろの寿司や刺身が米国やヨーロッパで急速に広がりつつある。人口13億の中国でもまぐろ消費の啓蒙普及が行われるようになっている。このように近年は市場の多様化、複雑化が急速に進んでいる。

 日本のまぐろ市場への供給量は、自国の漁獲量50万トン強と輸入量40万トン弱の、合わせて90万トンである。特に輸入量は最近まで着実に増加してきたが、2004年以降やや減少の気配が見られる(7)。この供給量に対して用途別消費量を見ると、刺身としての消費はカツオを除いた量に匹敵するものと推察され、近年は55万トン(国民一人当たりの年間消費量は4.6 kg)であり、残りはほぼ缶詰や鰹節関連(調味料を含む)で消費される。

 

7. 我が国に輸入されるまぐろ類。製品重量で示す。

 

 缶詰を最も多く消費しているのはヨーロッパで130万トン(原魚換算の重量)、次いで北米の60万トン(同)である(8)。まぐろ缶詰製品の総生産量155万トンのうち、第1位(24%)の生産がタイによって行われており、次いでスペイン(16%)、米国(13%)と続き、日本は第7位(4%)にランクされている(9)。このまぐろ缶詰総生産量は原魚重量に換算すると全まぐろ漁獲量の3分の2に相当する。なお、まぐろ缶詰生産量第一位のタイは、自国周辺での小型まぐろ類の漁獲はあるものの12万トン程度であり、その6倍以上の80万トン弱を台湾、バヌアツ、日本、韓国等から輸入している。

図8. 世界のまぐろ類の漁獲量と缶詰加工量(Ababouch and Camillo 2007、改変)

9. 世界の主要国別まぐろ缶詰生産量(Ababouch and Camillo 2007、改変)

 

 一方、日本の消費者のトロ嗜好とともに、日本市場向けのクロマグロ、ミナミマグロの蓄養が近年急激に拡大し、その生産量は2006年に約48,000トンと推定されるが(10)、クロマグロについては漁獲報告や科学データが提供されていないため、正確な蓄養量は不明である。これらの蓄養まぐろに関するデータ(いけ込み量、出荷量、あるいは蓄養中の成長率や死亡率等)の不足は、正確な資源評価や許容総漁獲量(TAC)による資源管理を困難にしている。

10. 蓄養によるクロマグロ及びミナミマグロの生産量の推定値、2006

 

資源評価

 まぐろ類は広大な海の表中層に分布するため、他の魚種で用いられる調査船による試験漁獲などの方法のみによる資源の全体像の把握は困難であり、その資源評価は商業漁獲による漁獲データに大きく依存している。我が国のはえ縄漁業が提供する漁獲成績報告書資料(漁船ごとの毎日の魚種別漁獲量や漁場位置等のデータ)は、諸外国に比べて精度が良く、またよく整備されているため貴重な資料として様々な漁業委員会で使用されている。資源評価では資源量の指標として漁獲努力量の動向が注目される。そこで、漁獲努力量に含まれる様々なノイズを除去して資源動向を抽出するためには、漁獲努力量の標準化が重要となる。例えば、対象魚に応じて漁具の仕立てを変更することは通常よく行われ、水深が深いところに分布するメバチを狙う際は深縄(釣り鈎を深い水深に設置するはえ縄の仕立て)を用いるし、逆に夜間メカジキを狙う際には釣り鈎を非常に浅い水深に設置する浅縄操業を行う。この様な漁具の違いが漁獲に及ぼす影響をどう補正するかが資源解析をする上で重要な課題となっている。現在まで、このような情報を提供できるのは我が国しかなく、各大洋におけるほとんどのまぐろ類の資源評価に我が国のデータが用いられているのが現状である。

 

国際調査

 まぐろ類は高度回遊性魚類であり、公海域のみならず日本及び外国の200海里経済水域内を移動する。そのため一国だけで資源を管理することは困難であり、各地域の漁業管理委員会による包括的な管理が必要とされる。日本は、これまで各地域の漁業管理委員会でリーダー的役割を果たしてきた。しかしながら、沿岸国である開発途上国の漁業の発達と我が国漁業の経済的な競争力の衰退とともに、前述のようなデータ面や資源管理面での我が国の貢献度が相対的に縮小しつつある。最近ではまぐろ類の調査研究のみならず、海亀・海鳥・さめ類等の混獲状況の把握やその削減、生態系保存を目的としたオブザーバー調査のカバー率向上や混獲削減のための調査研究の実施が必要とされている。

 

資源管理

 各国の200海里内経済水域内におけるまぐろ類の資源管理に関しては国連海洋法条約に基づき所管国に責任があるが、公海域におけるまぐろ類の資源管理は地域漁業管理機関(RFMO)に任されている。200412月にはこれまで漁業管理機関がなかった中西部太平洋にも地域漁業管理機関である中西部太平洋まぐろ類委員会(WCPFC)が設立され、世界的なまぐろの資源管理体制が整った。日本は20058月にWCPFCに加盟し、WCPFC内で北緯20度以北の中西部太平洋におけるまぐろ・かつお資源を管理する北小委員会の活動へも積極的に関与している。WCPFCでは200512月には中西部太平洋のメバチについて漁獲(漁獲努力量)を現状に凍結する案が採択され、200612月にはキハダについて同様の案が採択された。2007年には実質的な漁獲削減案が検討される予定である。

世界的なまぐろ類の過剰漁獲の削減問題はどのRFMOにとっても重要な課題である。2006年にはVMS(漁船位置自動報告)システムの採用、はえ縄漁獲物の転載をモニタリングするための運搬船監視の仕組み等が幾つかのRFMOで決定される等、漁業監視の強化策の導入が図られた。

また、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)においては東大西洋クロマグロの管理案が採択され、蓄養漁業のモニタリングやデータ収集強化が決定したことは注目に値する。また、20071月には全てのまぐろRFMOが神戸に一堂に会し、IUU(違法・無規制・無法国)漁業対策、漁獲能力削減、キャパシティ(Fishing Capacity)の制限、蓄養漁業の管理等共通の重要課題を協議し、より一層の世界的な協調による諸問題の解決が図られたことは特に有意義であった。

 

今後の問題点

 まぐろの資源管理に関する今後の問題点を箇条書きに列記した。 

Ø         漁獲統計、生物統計の精度とカバー率の向上、特に、開発途上の沿岸国の漁獲統計の整備

Ø         はえ縄、竿釣り、まき網漁業等における漁獲努力量の標準化及び漁獲努力量の動向の把握

Ø         FADsによる小型メバチの多獲が資源に及ぼす影響の評価と小型メバチの混獲回避技術の開発

Ø         蓄養まぐろに関するデータの収集と蓄養向け小型まぐろの漁獲が資源に及ぼす影響の評価

Ø         資源評価精度の向上、資源変動要因の解明及び資源加入モニタリング技術の開発

Ø         海鳥、海亀、さめ類の混獲実態の把握と混獲回避技術の開発及び混獲影響の評価

 

データソース

 この章で扱った漁獲量は、2004年まではFAO統計(統計ソフトのFISHSTAT Plusとデータ、http://www.fao.org/figis/servlet/static?dom=org&xml=FIDI_STAT_org.xml)を、漁法別の漁獲量についてはまぐろ関係の漁業委員会(IATTCSPCISCIOTCICCAT)の数値を、輸入量については財務省の輸入通関統計(http://www.customs.go.jp/toukei/srch/index.htm)を用いた。ミナミマグロについては、大洋別の統計が不確実なため大洋別に分類していない。まぐろ類の缶詰の加工量と生産量については以下を参考にした。

Ababouch, L. and Catarci, C. 2007. Global production and marketing of canned tuna. Appendix 8, Report of the 1st Joint Meeting of Tuna RFMOs, January 22-26, 2007, Kobe, Japan. TunaRFMOs/2007/07. 24pp. http://www.tuna-org.org/Documents/other/FinalReport-Appendices.pdf 2007213日)

 

執筆者

 まぐろ・かつおグループ

 遠洋水産研究所

 温帯性まぐろ資源部長 宮部尚純

 熱帯性まぐろ資源部長 本多